あとがき(『宮本百合子選集』第五巻

宮本百合子

あとがき(『宮本百合子選集』第五巻書籍情報

底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房
   1948(昭和23)年2月発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆

あとがき(『宮本百合子選集』第五巻 4

宮本百合子

「その年」という小説は、こういうひどい時期の記念の作品となった。『文芸春秋』が、一九三九年の春、もうそろそろ私も作品発表が可能らしいという見込みで、「その年」の原稿を印刷にする前に内務省の内閲に出した。やがて、内閲から戻されて来た原稿をもって『文芸春秋』の編輯者が目白に住んでいたわたしのところへ来た。そして、当惑して原稿をさし出し、何しろ赤鉛筆のスジのところはいけないって云うんですが、ということだった。原稿をあけてみて、わたしはおこるより先に呆れ、やがて笑い出した。原稿には、実によく赤鉛筆がはいっていて、それは各頁、各行だった。赤鉛筆のとぎれているところをひろって読めば、そのところは、ただ「そうしているうちに」とか「であるはずなのに」という風な箇所だった。